戦後の精神分析について
 ・・・アメリカでジャック・ラカンに養成分析を受けたただ一人の人、S・シュナイダーマンによれば、パリ開放時に、フランス人の多くから熱烈に歓迎されたアメリカ人は、戦後になってフランス人の180度の態度変更に直面しなければならなかった。共産党員はアメリカ軍の駐留を敵視し、ナチ・ドイツに協力した少なからぬ数のフランス人は、過去を忘れることに汲々としていた。その時、ジャック・ラカンはアメリカ人に対して誇ってよいものを、フランス人たちに与えた、とシュナイダーマンは言う。戦争が終わるとパリに戻ったラカンはS・P・P(パリ・精神分析教会)の中心的存在となり、構造主義者と呼ばれる思想家の一人として注目を受け、論争し、論文を次々と発表し、セミネールを開くに至る。フロイディスム、精神分析は人間認識の重要な一環をなす思想体系であり、沈滞していたドイツに替って、戦後のラカンを先頭とするフランスのフロイト派は大きな存在となった。単なる神経症を治療する精神分析ではなく、精神分析は文化の根源にかかわる思想の突出点となった。