ヤコブソンの言語学・・・テレンス・ホークス『構造主義と記号論』池上嘉彦・他訳による
 ヤコブソンは、詩に於いては、「語」は自らが指示する対象とか感興の発露とかの代用となるだけではなく、「語」それ自体として知覚されると述べたが、これはさきに紹介したシュルレアリスムの自動記述法における「語」の発見、「語」の重視にも当てはまる。ヤコブソンは二つの種類の比喩である「隠喩」と「換喩」を、輝かしい二項対立と見て、一つを「類似性」、もう一つを「近接性」とし、両者の存在により、「選択」と「結合」という二面からなる言語記号の形成過程が支持されると見る。「近接性」の上に「類似性」が重ねられることによって、詩は完全に象徴的、複合的、多義的な本質を得る。ヤコブソンは絵画の場合を例としてであるが、様式的にいってキュピズムは「換喩」的、シュルレアリスムは「隠喩」的と区別することが可能であるとする。ラカンはこの二つの象徴表現様式をとりあげて、心理機能の理解に対するモデルになるとした。

 ヤコブソンと同じくプラハ言語学派の一人、ヤン・ムカジョフスキーは「前景化」ということを言っていて、詩の場合(シュルレアリスムも含めて)の言語を巧みに指示している。「詩的言語の機能の本質は、発話の前景化が最大限であることである・・・言語は伝達のために用いられるのではなく、表現行為、言語行為それ自体を前面に押し出す為に用いられているのである」。1925年前後さかんに「シュルレアリスム革命」誌に発表された「シュルレアリスム的テクスト」はその代表的なものだろう。

 ホークスによれば
「言語は結局のところ、<語という物質的な実質>に内在するものではなく、もっと大きくて抽象的な<記号の体系>に存することを、ソシュールは発見した」・・そして「(芸術や宗教まで含んだ)社会生活の異なった様相が、言語学に用いられたような方法と概念によって研究され得るかどうか、さらに、それら社会生活の諸様相の根底にある性質は、言語の性質と同じものではないのか」ということを、レヴィ=ストロースは把握した、と。

ソシュールを知るには丸山圭三郎著『ソシュールの思想』が有益。